<イントロダクション>

『長い散歩』でモントリオール世界映画祭グランプリを受賞するなど、映画監督としても世界的な評価を受ける名優・奥田瑛二。前作『風の外側』から6年ぶり、5作目の長編となる本作は、東日本大震災を背景に、心の拠りどころを失くした2人の若い男女を通じ、まだ癒えることのない日本の傷跡を生々しくさらすと同時に、過去の重い罪を背負いながら、ふたたび人生を生きようとする姿を力強く謳ったヒューマン・ドラマとなっている。この作品は、自ら脚本を執筆した奥田監督でなければ決して生まれないであろう独創的で、今の閉塞した日本を打ち破るような野心作である。
 家族を養うため、やむなく他人に体を許してしまい、故郷を追われる身となった保険外交員の今日子。大学受験を控えるなか、暴力的な父親から母親を守るために事件を起こし、少年刑務所に服役することになった修一。同じ故郷である宮城県・南三陸町を離れ、東京で新たな決意とともに生活を始めた2人にも、“あの瞬間”が訪れる…。
 同居中の男に言われるがままの生活を送る今日子と小さな町工場で働き始める修一には、多くの映画やTVドラマ、舞台と活躍の場を広げる安藤サクラ・柄本佑が務める。次世代の日本映画界を支える若手実力派として、各映画賞を独占するだけでなく、実生活では夫婦である2人が共演し、劇中ではほとんど交わることのない他人を演じることで、より観客の胸に訴えかける作品に仕上がっている。また、『プラチナデータ』の和田聰宏、『BECK』のカンニング竹山、『かぞくのくに』の宮崎美子、『八日目の蝉』の平田満などの実力派キャストが、奥田監督の熱いラブコールを受けて顔を揃えた。さらに、作家の高橋源一郎が監督の期待に応える個性的な演技を見せ、『ふがいない僕は空を見た』『ももいろそらを』などで注目される若手女優・小篠恵奈が、修一を陰で支えていく少女を好演している。
 監督は当初、ボランティア活動をすることで被災地を応援するつもりでいたが、津波被害に遭った宮城県南三陸町志津川地区を訪れるうちに、「自分ができることは映画を撮ること」と考え、本作の製作を決意したという。2012年2月、南三陸町でのクランクインから、夏~秋と長期に渡る撮影期間を経て、ついに完成させた『今日子と修一の場合』には、「どんな絶望も人を苦しめ続けることはできない」という、監督からの熱く、強いメッセージが込められている。
2011年3月11日、14時18分。東北地方太平洋沖地震・東日本大震災は起きた――この物語は、被災地を故郷に持った、女と男の物語。

<ストーリー>

2011年3月11日、14時18分。東北地方太平洋沖地震・東日本大震災は起きた――この物語は、被災地を故郷に持った、女と男の物語。

●今日子(安藤サクラ)の場合
漁師の妻として、一人息子や義理の両親とともにごく普通の幸せな生活を送っていた、南三陸町出身の今日子。ある日、夫が病に倒れ、生命保険会社の外交員の仕事に就いた彼女だったが、上司(カンニング竹山)から営業成績の不振を指摘される。ふたたび幸せな生活を取り戻すため、やむなく上司や営業先の社長に体を許すことを選ぶ彼女だったが、それが家族の知るところとなり、家を追われるだけでなく、一人息子の親権も奪われてしまう。
故郷を離れ、スーツケース一個で上京した今日子は、日々悔恨のなか、身を持ち崩していく。あてもなく渋谷の街中を歩く孤独な彼女の前に、一人の男(和田聰宏)が現れた。風俗のスカウトマンである彼は今日子の心の隙間に寄生し、次第に寄り添い始める。彼と同棲を始め、体を売る仕事に就くなど、身も心も搾り取られた日々を送る彼女にも、「あの瞬間」が訪れる。そして、今日子の人生をふたたび狂わせていくのだった。
●修一(柄本佑)の場合
大学進学のため、浪人生活を送っていた南三陸町出身の修一。会社をリストラされ、酒に溺れる彼の父親(平田満)の愚痴は、やがてエスカレートし、母親(宮崎美子)に暴力を振るい出す。それを見た修一は、母親を守るため、衝動的に父親を殺害してしまう。
少年刑務所に服役した修一は出所後、東京の小さな町工場に住み込みで働き始める。新たな生活を始めようとしていた彼にも、「あの瞬間」が訪れる。夫の死後、南三陸町で一人暮らしをしていた母親は、不運にも津波の犠牲となり、行方不明になってしまう。
東京で、強く生きることを決意した修一は、次第に熱心に仕事に取り組み始める。また、彼と同じく、悲しく辛い過去を持つピアニスト志望の同僚(和音匠)や、修一を支えようとする少女(小篠恵奈)とも出会う。そして、ふたたび大学受験を決意した修一は、未来に向かって歩み始めるのであった。
2011年3月11日、14時18分。東北地方太平洋沖地震・東日本大震災は起きた――この物語は、被災地を故郷に持った、女と男の物語。

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